建ち続けたことで巡り合えた
食を楽しむ古民家
田舎で自分のお店を開きたい
高橋シェフは、東京で長らく創作イタリアンに従事し、修行を重ねていた。
自身の子ども達が通う個性豊かな保育園。
みんなで田舎暮らしをしようと、仲良くしていた保護者友達同士で意気投合。
そして、3組の家族で移住地を選び、3組ともに八ヶ岳に移住した。
移住してから3年余り、物件や土地を探し回った。
田舎でコミューンを作りたいと、家族共同シェアハウスが成立する物件を探したりもした。(コミューンとは、フランス、スウェーデンなどに古くから伝わる考え方、体制のことで、市民同士でお互いに助け合うことを前提とした集合体、地方行政の最小単位、一定の自治権を認められた都市等々)
新築することも考えた時、八ヶ岳には空き家、古民家が多いことにも気づいた。
古民家レストラン。確かに響きは良い。
ただ現実は、たとえ空き家率が高くても、賃貸借、売買にまで結びつかないことも多く物件探しは難航した。値段も、立地も、状態も、駐車場の場所確保も全て条件が揃うような場所は中々見つからなかった。
諦めず、まずは、声を出し、動き回る。
地元の方に家を探していることを伝えることから始めた。
そして、努力の甲斐もあり、ご縁で、集落の物件を手に入れることができた。
江戸時代に建てられた、築170年の古民家。
北杜市大泉町の谷戸地域は、古くは平安時代から朝廷とつながり、甲斐源氏、後の戦国大名武田氏が誕生したゆかりのある場所として、集落には古民家が立ち並んでいると言われているそう。
古民家からは畑もできる大きな庭、桜の木や四季折々の植物、富士山や南アルプスも一望できるという、最高のロケーションに一目ぼれ。
あとはどう改修するか。古民家の改修をしつつ、店舗と住居もデザインするにはどうするか。
ただ壊して、入れ替えるだけでは、古民家再生とは言わない。
歴史ある家を前に、そんなことも脳裏をよぎった。
そして、地元工務店・素朴屋にリノベーションを依頼。
もともとあった土間や、黒光りする柱や天井は残した。増築も行い、大きな二階建ての家を縦半分に仕切り、魅力的な空間に仕上がった。店舗と住居に1つずつの薪ストーブ。住みながらもメンテナンスを繰り返し、コンパクトな間取りで冬の過ごし方を工夫した。
古民家再生。念願叶って、「ふらここ食堂 Fracoco Italian」が誕生した。
バブル崩壊した大都会、お酒の席で夢を語り合ったことが、八ヶ岳の地で実現したのだ。
皆様も、人気有名店のふらここ食堂に、ぜひ足を運んでいただきたい。
それから10年以上。
一緒に移住した友達家族も相変わらずノホホンとそれぞれ生活をしている。
子ども達も独り立ちし、今はご夫婦2人の生活。
古民家は、今も変わらず、立派に建っている。
当時、施工した素朴屋の代表・今井久志が
10年ぶりに桜の枝に吊ったブランコをかけかえた。
ローブを苔が覆い、過ぎた月日を知り感慨深い気持ちになった。
素朴屋にとっても非常に思い入れのある物件だ。
また10年後に、桜を見ながら想いに浸る時が来ることを願っている。
※ふらこことは、「ブランコ」を意味する言葉。春の時期の伝統習慣で行う遊びの一つとして、和歌にも詠まれる美しい春の季語にもなっている。